「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」/時をかけるCreepy Nuts
さて、今からCreepy Nutsのメジャーデビューシングルについて話をする。
「何を今更…」と思うだろうが、"2021年"に初めてクリーピーのCDを手に取ったことに意味があるのだ。
いんとかふろーとかわからないけど、あたしのハナシ聞いてかないー?
「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」/Creepy Nuts
まず収録曲を確認すると、
1. メジャーデビュー指南
2. "悩む"相談室メジャーデビュー特別編
3. だがそれでいい
と記載されている。2曲目はおそらくラジオ形式のトークだろうと予想できる。
CDを取り込む。収録時間は…"1時間17分"
お前…メジャーデビュー"シングル"よな…?!
どうやらシングルにトークを1時間以上ギッチギチに詰め込むことでアルバム並みのボリュームを出す、という戦略のようだ。収録時間からトチ狂っている。
1. メジャーデビュー指南
「おー、久しぶり!」
おー久しぶり。俺な、今度ソニーからメジャーデビューすんねん。
「え!?メジャー?そりゃ大変やなぁ、終わったな、ご愁傷様」
この曲はメジャーデビューを控えるR-指定と、クソみてえなアドバイスをかます地元の友人らしき人物との会話から始まる。
「ソニーからメジャーデビューすんねん」
開始数秒でレコード会社の名前を明言してくるデビュー曲ある?Sonyもいろいろ言われて大丈夫そ?*1
「メジャー行ってから変わった、昔のほうが良かった」
ああ~~、"昔の方が良かった"はデビューに関わらず言われるよなあ…
なんかアルバム2枚目くらいから違和感を覚え始めて、気付いた頃にはよくあるアーティストと似たような形に整えられて見る影も無いとか、とか。
落語的なRの会話芸だがガチガチに韻も踏んでいて、特に「先天性・前前前世・整形せえ・決定権」の畳み掛けが美しい。
サビ前半はなんだかジャニオタやってる身として深いし、後半は言わずもがなクリスピードーナツならぬ"CreepyNuts"の文字が隠されている。
MVも謎オペラ風、白塗りの松永、そして「キョーヘイナラデキルヨ!!」で死ねるハチャメチャな作品だ。
「だがそれでいい」は先にアルバム「クリープ・ショー」で聴いていたため、このシングルはとりあえず1周目終了とした。1時間トークを聴くのにはそれなりに覚悟がいる。
そういやシングルのタイトル、曲名ですらねえな。尖りに尖ったデビュー曲はサイコーでこわかった。
2. "悩む"相談室メジャーデビュー特別編
クリーピーの曲をあらかた聴き終わったくらいにこいつの存在を思い出した。
冒頭のトークを聴く限り、本当にラジオ番組をそのままCDにぶちこんだらしい。
「CDにするからあんまり個人名言っちゃダメなんだ!」って笑ってるのウケる。
シングルのタイトルにちなんで「○○デビュー失敗」エピソードがリスナー*2から寄せられ、それに対してRと松永が茶化したり共感したりしながらトークは進んでいく。
が、リスナーのエピソードを全て霞ませるほどの超絶黒歴史、"Rのマイプロフィール(前略プロフィール的なやつ)"がサプライズで晒されるのだ。
ボロボロのRが最後に紹介するのが、この曲である。
3. だがそれでいい
正直クリーピーのMVは映像が濃すぎて曲が頭に入ってこないことが多い。
このMVも90個の黒歴史がとめどなく流れていき、
「うわ…Rが着てるみたいなファッションの人大学になってもいたわぁ…」
「芋ジャに前髪ピンの松永きゃわ…」
なんてニヤニヤしている間に終わる。
何も知らない人にこのMVを紹介したら"黒歴史が面白い曲"と認識されるだろう。
しかし、先ほどのラジオを聞いた後はどうだろうか。
文化祭ラップ、卒業文集に歌詞…とRの黒歴史の伏線を全てを回収し、「それでいい」と包み込むのだ。
"黒歴史を笑っている"スタンスだったのに、"黒歴史もそれでいい、突き進め"と気付いたら背中を押されている。
現在進行形の黒歴史 お前は間違ってる
間違ってるが、それであってる
だって高校デビュー、大学デビュー
全部失敗したけどメジャーデビュー
なんか…泣けない…?*3
その後のCreepy NutsのCDにも、"ラジオ盤"としてトークが収録されている。
始まりはだいたいこうだ。(Caseはライブ盤を買ってしまったので未確認)
「ライトなファンが安い方のCD買ったら急にトークが始まる。気持ち悪い!」
確かに"通常盤"だと思って買った音楽CDを再生したらまず男たちが喋りだす様はなかなか異様なものであるかもしれない。
ただ曲フリとして「○○はこういう曲です~」としっかり解説してくれるので、意外と初心者向けな側面もある。
2019年「よふかしのうた」OPトークではこんな会話があった。
松永「レンタルとかで2021年くらいにこれ聴いた人いるかもしれません (中略) "王"のCDを再生している、そういうこと」
R「あと2年で"王"になる…ってコト!?俺ら」
ドキリとした。まさに"レンタルで2021年にこのCDを聴いている"人間だからだ。
また2021年のクリーピーはテレビに引っ張りだこ。林修にインタビューされ、関ジャムで特集を組まれ。だいぶ"王"。
松永がオリンピックの閉会式に出演。かなり"王"。
アルバム「Case」も発売後にタイアップが増えていくというパターンで、気付けば1曲を除いてタイアップ曲で固められている"王"っぷり。
木村拓哉への楽曲提供も驚くほど"王"だった。
2020年「かつて天才だった俺たちへ」EDトークではブックオフでCDを買った人に対して「あなたの時間軸の私たちはライブできてますか?」と問いかけている。
「ライブがつまらない」「特に必要ない」「ライブなんてやるアーティスト今いねえよ」なんて未来が訪れる可能性を憂いている。
クリーピーの二人はラジオ盤のトークのことを"記録""タイムカプセル"と喩えていた。
実際にクリーピーのトークはCDとして記録され、時を越えている。
また、ヒップホップという音楽自体も"己の今"を投影したものであり、Rやクリーピーの現状が日々変遷していることを表している。
時をかけるCreepy NutsのCDをまた数年、数十年後に聴いたらきっと面白いことになるだろう。
私のブログも「イタイな」「黒歴史じゃん」と思う時があるだろうが、「だがそれでいい」と面白く"時をかけて"くれることを願う。
そしてこのブログがアップされる数日後、私は"王"のライブに参加することが決まっている。
まだ2021年。無歓声だが少しずつ以前のような形でライブができるようになってきている。
ライブにはまだまだ価値がある。"王"の二人を目の当たりにするのが楽しみでしかたない。
Mステには余裕の出演。紅白も本当に射程圏内に入ってきた。
「土産話」のような歌詞が書けるようになった。
あ~あ、「俺らまだのびしろしかないわ」